フランクフルトで夜明かし (前編)





そう、あれはドイツに渡って1月も経たない頃の事だった。

私とN大からの交換留学生、新浦(仮名)はフランクフルトへ「オペラ座の怪人」 というミュージカルを見に行くことにした。会場はヘキストという所にあるらしい。 どこだかよくわからないが、チケットにフランクフルトと書いてあるからには フランクフルト市内のどこかなんだろう。後でタクシーを拾ってつれていってもらえばいい。 そう考えて2人は夕方までフランクフルト市内観光をすることにしたのだ。
この会場の位置を確かめておかなかったのがそもそもの間違いだった。

フランクフルトを一通り観光し、ザクセンハウゼンでリンゴ酒を飲み(あまり美味しくなかった) さて、そろそろ会場に向かうか、と思ってタクシーに乗った。
タクシーの運転手にチケットを見せて、「この会場まで行ってくれ」と頼んだのだが、 運転手は「高速に乗るか、それとも普通の道路で行くか?」などと聞いてくる。 何でそんなことを聞くんだろう、と思いつつも、「早いほうでいい」と答え、 車を出してもらった。
10分ぐらいでつくかなー、と思っていたのだが、車がとまる気配は一向にない。 それどころかフランクフルトからどんどん離れていくのだ。私たちはだんだん不安になってきた。
「ねえ、この運転手、わざと遠回りして料金ぼったくってんじゃない?」
しかしそうではなかった。会場はフランクフルトから離れた郊外にあったのだ。 会場までのタクシー料金は50マルク弱であった。しかしその料金よりも、 こんな郊外へつれてこられてしまった事の方が私たちにとってはショックであった。
がーん!いったいここはどこ?!
しかもミュージカルは私たちの期待したものではなかった。
いやーん、こればったもんやん!!!
「オペラ座の怪人」にそんな何種類もあるなんて知らなかったので、てっきりあの有名な、 「アンドリュー・L・ウェーバーのオペラ座の怪人」だと思い込んでいたのだ。
ダブルショックを受けつつも、それなりにミュージカルは楽しかった。 最悪だったのはその後である。
ここがどこだかわからないので、帰りもタクシーに乗るしかない!と思っていたのだが、 タクシーが全然いないのである。どうやら観客はほとんど自家用車で来ているらしく、 ぞろぞろと列をなして走りさってしまった。あとに残るは嵐の後の静けさ・・・
時刻はもう夜11時近く。シーンとした会場で私たちはパニックに陥った。
えーっ!どうやって帰るのん!?
落ち着け、先ずは落ち着くんだ!しかし誰かに帰りかたを尋ねようにも、 周りにはひとっこひとりいない。ピーンチ!!!
そうだ、会場のなかに、まだスタッフの人がいるかもしれないぞ!
そう思って、既に鍵のかかったガラスのドアをたたいた。
「おーねーがーいー!あーけーてー!」
すると、守衛さんがでてきてドアを開けてくれた。ばかな東洋人と思われているのだろうか、 にやにや笑っている。今は何と思われたっていい。とにかく帰りかたを聞かなければ!

「フランクフルトへの帰りかたがわからないんですぅ(涙声)、教えてくださぁい!」
おじさんは笑って、帰りかたを教えてくれた。
「いいかい、ここを出て右に歩いていくと、市電の駅へのバス停があるからね、 そこでバスを待ちなさい。そして市電の駅に着いたら、フランクフルト行きの電車にのるんだよ。 まだバスはあるから、大丈夫!」
おじさんありがとおぉぉ!
おじさんの言ったとおりに歩いていくと、バス停があり5分ぐらいでバスも来た。 よかったよかった。
一安心する私たちであった。

しかし、本当の試練はそれからであった・・・



次へ






Mail: takochan@nikoniko.104.net