元々怪しい奴だとおもっていたのだ。 私にとって「M国人」はまず警戒をいだいてしまう対象である。 なぜなら今までロクな目にあっていないからだ。 事件がおこったのはドイツにきてから3ヵ月になろうとするころであった。 「そいつ」は同じ階にすんでいるM国人であった。 一応最初から警戒はしていた私であったが、 他の住人がごく普通に接しているのをみて、 「変な先入観で人をきめつけてはいけない!」 と思う事にしたのだ。 しかしながら、彼の視線ははっきりいって気持ちわるかった。 人をなめるように上から下までジロジロみるのだ。 しかし何かされたわけでもないので、文句言うわけにもいかない。 だが、私の不信感は日増しに高まっていくのだった。 決定的になったのはある日の台所での事である。 私が料理をしているとそいつがやってきた。 ゴミを捨てに来ただけのくせに、かえろうとしない。 私の一挙一動をつぶさに観察してるのだ。 ゲゲゲーッとおもっていたら、こんなことをいいだした。 「ねえ、今晩暇?」 何?何をいっているんだこいつは!!! 「時間ない」 とそっけなくこたえたのだが、しつこくきいてくる。 「じゃあ明日は?」 「ないよ!」 「じゃあ、時間の有る時に俺の部屋をノックしてよ!」 何も答えずにいると、その日はおとなしくかえっていった。 それから1週間ほどは普通にすぎた。 そいつも変な視線をよこさなくなったし、誘ってもこなかった。 しかし安心するのは早かったのである。 夜の10時頃だった。ドアをノックする音がする。 日本人の友達だとおもってあけるとたっていたのは「そいつ」 であった。一瞬にして私は氷ってしまったのだが、 そいつはさも同情をひくような声でうったえてくる。 「足を怪我してしまったんだ!痛くてたまらない! 包帯をかえたいんだけど一人じゃできないんだ。 てつだってもらえないかなあ?」 見ると本当にびっこをひいて足に包帯をしている。 こいつ、同情ひこうとおもって嘘言ってんじゃないか!? とおもったが、当時まだNeinと言えない日本人であった私は、 「いいけど、台所でね」 と一応安全そうな場所をえらんで引き受けた。ところが、 「どうして?君の部屋だっていいじゃない!」 と、そいつはスタスタ私の部屋に止める間もなくあがりこんで、 (おい!足が痛いんじゃなかったのか!) ベッドの上にドッカリと腰掛けてしまったのだ! たこピーンチ!!! |